みなさんは“協働”という言葉を聞いたことがありますか?
マルチになんでもできるという人はごく稀にはいるけれど、人は往々にして、足りないところを補いあって生きていくもの。
その方が確実で安定し、より大きなことができるのは、歴史も証明しています。
「おそらくそんな関係性を、ヒトは20万年以上も前から紡いでいたんだと思うんです。AIがどれだけ発達しても、結局その部分は変わらず、AIの知能では補えない部分がコミュニケーション。そこなしにヒトは生きていけないと僕は考えているんですね。
政治だって企業活動だって商売だって、結局はヒト同士の“協働”。社会への入り口が近い学生たちが、どうやったらその“協働力”をつけていけるか。
教科書をただ読んでいても、それは単なる“知識”であって、実際の社会で活躍する力には繋がりにくい。ならば、教科書を単なる題材と捉え、実際にそこに記述されている“シーン”に学生が頭脳&体感丸ごと入り込める授業を作ればいいと考え抜いて編み出したのが、今の授業スタイルなんです」
アフリカというフィールドを舞台に研究を続けてきた菊地先生の授業は、まずお題(テーマ)を自分で調べ、予習する。
今日のテーマは【独裁政権から民主化へと向かっていった現代ケニアの政治】
ゼミ生たちはまず、3つの『専門家グループ』に分かれ、与えられたジャンルに特化した知識を予備学習をします。
1.『平和的政権交代』の専門家
2.『選挙後暴力』の専門家
3.『統治の仕組み』の専門家
ケニアが民主化を辿った歴史的過程を学ぶ中から、自分が専門家として他者に説明できる知識を、3者それぞれの視点で掘り下げます。
そしてオンライン授業がスタート。
「さあ授業を始めます。それぞれの専門家チームのブレイクアウトルームを作るので、自分が調べてきたことをお互いに確認しあってくださいね」
【独裁政権から民主化へと向かっていった現代ケニア】というシーンにおいて、3ジャンルの各専門家が得たそれぞれの知識を、まずは同じ専門家のチーム内でお互いに披露&確認作業。
それが終わると、チームメンバーをシャッフル、専門家チームは解体し、代わりにプロジェクトチームが誕生します。そして3ジャンルのそれぞれの専門家がバラバラになって一つのチームを形成。
「さあ、ここから10分のミーティングで自分の立ち位置をはっきりさせ、周りとの“協働”を図れるよう、自分の専門分野を周囲にきちんと分かりやすく説明してください。
プロジェクトチームは互いの知識を深め合う専門家チームとは違い、目標を成し遂げるチーム。今回の場合は、独裁から民主化にいたるまで、ケニアの政治は実にすったもんだしたけれど、結果2010年に新しい憲法が制定されることになった、その時にそれぞれの専門家がどう力を発揮できるか、各自知見を披露してチーム全員で一つの方向性を紡ぎ出していってください」
なるほど。やってみるとずいぶんと頭を使いますヨ、笑。
9月に授業がスタートした頃には「?」マークが浮かんでいた学生も、10月に入ってからは菊地先生の意図が掴めてきたらしく、積極的に質問も飛び交うようになりました。
「さあ、できたかな? 最後は仕上げです。今回のテーマシーンとなった【独裁政権から民主化へと向かっていった現代ケニア】を舞台に、チームメンバーで寸劇を演じてください。登場人物は現大統領、国民、助言する専門家、前大統領、などなんでもいいです。配役も自分たちで決めてください。たった一つの約束は、自分がその役になりきって、会話することです」
学生たちの間で始まった1分間の寸劇は、それはそれは見事でした!
「俺は国民。キバキ大統領さん、あなた達が結成した統一野党のおかげで、今後制定される憲法が機能する国になると期待してるんだけど、どうよ?笑」
「いや、みな大変だったよ、権力が大統領一人に集中してた時代は。あなたは三権分立って知ってるかな?三権は立法・行政・司法。俺らの国にとって初めての民主化だけど頑張るよ」
「お前はそんなことを言ってるけど、俺(オディンガ)はお前に裏切られた。忘れもしない屈辱の2002年、お前(キバキ)を大統領に担ぎ上げたのは俺だったのに、お前は俺を切った。結果、因縁の対決が2007年に選挙として行われたわけだけど、国内での暴動がおさまらなかったのは、キバキ、お前を信頼しきれてない国民の声なんだよ、わかるかっ!」
笑笑。なかなか白熱しています。とどのつまり、このような寸劇は、本当の意味でそのテーマを理解していないとできない、そこがポイント。
「理解ってのはそんなに単純ではなく、同じテーマシーンでも各チームによって『解釈が全然違うものになる』というのがこの授業のとても面白いところなんです。
現実の世界では答えは1つではありません。無数にあって、それをみなさん一人一人が自分の立ち位置をはっきりさせ、チーム内での“協働”によって答えを出していく。その楽しさが分かってくると、この授業はとても面白くなるんです」
90分の授業。頭をよく使ったためか、授業終わりにはパズルを完成させた後のような爽快感。凝り固まった頭は、ZOOM内での “協働力”で、柔らかにマッサージされたようでした。